福岡高等裁判所 昭和29年(う)614号 判決
そこで、原判決が前記漁船豊成丸を沒収しなかつたことの可否について考えて見るのに、先づ原裁判所で取り調べた島向磯吉の検察官事務取扱に対する供述調書中同人の供述記載(記録第一冊の第一五二丁以下)原裁判所の昭和二十八年二月十一日附検証調書中立会人島向磯吉の説明記載部分(同第四冊の第六九丁)及び被告人力武克行の検察官事務取扱に対する供述調書中同人の供述記載(同第二冊の第一〇七丁以下。但し同人が所有者である旨の供述記載を除く)並びに当裁判所で取り調べた証人島向磯吉の供述等に徴すれば、右豊成丸については、昭和二十七年七月二十一日その所有主島向磯吉と本件被告人力武克行との間に代金二十二万円但し内金十二万円即時払残代金十万円は同年八月二十五日までに支払う(尚右残代金が支払われると同時に右豊成丸についての所有名義変更の手続を為す)ことの約定で売買契約が成立し、被告人力武克行は即時右金十二万円を支払い、同年七月二十四日原判示の通り右漁船の引渡も為されたが、被告人力武克行は遂に右残代金の支払を為さないまま今日に及んでいるので、右豊成丸の所有権は依然として売主島向磯吉に属するものと認められ、尚右島向磯吉は右売買契約及び引渡を為すに際し、被告人等が右豊成丸を原判決認定の様な密輸出の目的に用うることの事情を全く知らず(即ち相手方は之を石積団平船の曳船或は鮮魚運搬に使用するということであり、密輸出の話がないのは固よりその素振りさえ見受けられなかつた)、しかもその知らないことにつき過失はなかつたものと認めるのが相当である。然らば、結局、所論豊成丸は本件犯行当時被告人等の占有に属していたものであるとは言え、その所有権は今尚売主島向磯吉に属し且同人がその占有を被告人等に移す際前記の様な事情については善意無過失であつたことが明らかであるから、欺様な物まで関税法第八十三条第一項にいわゆる「犯人ノ所有又ハ占有ニ係ルモノ」として沒収し得べき限りではないと解するのが相当であり、原判決が之を沒収しなかつたのも亦同旨の見解に出でたものと言うべく、固より正当な措置であつて、原判決にはこの点に関し所論の様な法令の適用を誤つた瑕疵は存しない。
而して論旨は、所論豊成丸に関する右説示の様な所有関係或は被告人等が之を占有するに至つた事情等に思を致すことなく、原判決が之を沒収しなかつた理由を単に本件密輸出が既遂でなかつたことに因るものと解し、かかる見解に立脚して原判決の右措置を非難するものであつて、結局その当を得ないものと言うべく、従つて之を採用することができない。(後略)